大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成8年(ネ)226号 判決 1997年1月27日

控訴人

滝上元

右訴訟代理人弁護士

鈴木宗厳

被控訴人

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

酒巻英雄

右訴訟代理人弁護士

丸山隆寬

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金九〇三万五一〇三円及びこれに対する平成四年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、三一四〇万〇五六四円及びこれに対する平成四年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

原判決五頁八行目の「井関農機株は」の後に「、同年四月八日に高値七二四円をつけた後、」を加え、同九頁四行目の「その」を削除し、一七頁九行目の「伺われる」を「窺われる」と改め、同二〇頁初行の「推移」の後に「及びその後の値上がりの見通し」を加え、同二七頁三行目の「これら」を「控訴人主張の法令等」と改める。

第三  争点に対する判断

一  東急株取引の違法性の有無について

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決三九頁六行目から五一頁三行目までのとおりであるから、ここに引用する。

1  原判決三九頁九行目の「原告本人」の後に「(原審・当審)」を、同一〇行目の末尾の後に「(原審・当審)」を、それぞれ加え、同四一頁七行目の「株式の」を削除し、「オプション取引、」の後に「株式の」を加え、同四四頁四行目及び四五頁四行目の「相場感」を「相場観」と改め、同末行の「情報があった。」の後に「橋本は、自分の意見としては、後者を支持することを伝え、」を、同四七頁六行目末尾の後に「同年五月二九日ころの」を、それぞれ加え、同四八頁九行目の「によれば、」の後に「前記平成三年五月二九日ころの」を加える。

2  同四九頁二行目の「を原告に」を「を自分の意見として控訴人に」と改め、同八行目の「解され」を「推認され(現に、大和證券及び山種証券の営業社員の意見を聞いていた(当審における控訴人本人)。)」を加え、同五〇頁二行目の「ことが違法である」を削除し、同三行目の「その」を「原審・当審における」と改め、同六行目の「記載部分は」の後に「、前記の認定判断及び原審証人橋本の証言に照らし」を加え、同八行目の「でないこと」を「ではなく、右供述は、同人が顧客である控訴人に呼び出されて、控訴人方において、録音されていることを知らないでしたものであること」と改め、同九行目の「解されない。」の後に改行して、次のとおり加える。

「また、控訴人は、橋本が当時控訴人に対し、東京急行電鉄につき、「暴力団が仕手合戦に絡むようなダメな会社だからいいんです。」と述べたとも主張、供述するが、原審証人橋本の証言に照らすと、右主張、供述は直ちには採用し難いうえ、仮にそのとおりであったとしても、前記の認定判断に照らすと、右の言辞を含む当時の橋本の言動が不法行為責任を成立させるに足りる程度まで違法なものであったとは認め難い。」

二  井関農機株取引の違法性の有無について

1  証拠(甲八、一四、一五の各1、2、乙四、五、六の9ないし15、九、一〇、二三、二五、二七、原審証人橋本、原審・当審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、甲八、原審証人橋本の証言及び原審・当審における控訴人本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分はいずれも採用できない。

(一) 控訴人は、被控訴人以外の証券会社でも、証券取引所間の株価の格差等を利用した有利な取引を経験しており、かねてより、被控訴人に対しても、利益が出る取引や委託保証金が五〇〇万円以内で有利な信用取引があれば案内するように要請していた。そして、橋本も、控訴人が大口の顧客であることから、控訴人との取引を継続させるため、以下の取引を案内した結果、控訴人は、以下のとおりの利益を得た。

(1) 平成二年八月三〇日、日本重化学工業の株式二万株(現物)を一株一九八〇円で購入し、同日、一株二一一〇円で売却し、一九八万二三四八円の利益を得た。

(2) 同年九月一〇日、昭和海運の株式三万株(現物)を一株九七五円で購入し、同日、一株一〇四〇円で売却し、一四四万九三五八円の利益を得た。

(3) 同年一〇月二日、キャノンワラントを一〇〇ワラント(現物)購入し、同日、これを売却し、九七万九三〇五円の利益を得た。

(4) 同年一一月七日、シマノの株式(信用)一万株を一株五〇五〇円で購入し、同日、一株五四〇〇円で売却し、二七五万三四二五円の利益を得た。

(二) 橋本は、平成三年四月五日午前九時四四分ころ、井関農機株が確実に値上がりすると考え、七万株について一株七〇〇円であれば、信用取引の委託保証金がその一割の四九〇万円となり、控訴人が希望していた委託保証金五〇〇万円以内の取引との条件を満たすので、右取引については控訴人が承諾するものと予想し、被控訴人の大阪支店株式部に対し、東京証券取引所で井関農機株を別の顧客の分も含め一〇万株を一株七〇〇円で買付けるよう依頼をした。被控訴人の大阪支店株式部は、午前一〇時五〇分ころまでに、一〇万株を七〇〇円で購入した後、大阪証券取引所に右一〇万株を売りに出し、被控訴人大分支店が右一〇万株を買付ける方法で右一〇万株を保有した。なお、被控訴人大分支店の右買付け(以下「本件見込み買付け」という。)は、橋本が同日午前九時四四分に作成した、控訴人を買主名義とする株式委託注文伝票(乙二七の原本)に基づき控訴人名義で行われたと思われる。そして、橋本は、同日午後一時ころ、東京証券取引所における午後の最初の株価が七二〇円となったのを確認した後、控訴人が同日午後に大分市内の法律事務所へ行く予定であることを前日に控訴人から聞いていたことから、右法律事務所(本件控訴人訴訟代理人の事務所)に同日午後二時ころ、電話を入れた。この時点の東京証券取引所における井関農機株の株価は、後記のとおり七一四円であったが、橋本は、電話に出た控訴人に対し、七〇〇円で買付けた井関農機株が現在七二〇円にまで値上がりしており、手数料を支払ってもなお利益が出ているので、七万株を七〇〇円で買付けて欲しい旨要請したところ、控訴人は、これを承諾した。その結果、右七万株については、前記控訴人を買主名義とする株式委託注文伝票に基づき、大阪証券取引所において、被控訴人の大阪支店株式部から控訴人が購入した形で処理された。

橋本は、右同日か同年四月八日までに、控訴人に対し、右七万株について取引が成立したことを報告するとともに、右信用取引に伴う委託保証金の金額とその受渡し方法を確認し、控訴人は、右信用取引の委託保証金四九〇万円を同年四月八日に小切手を振出して被控訴人に支払った。同年四月五日は金曜日であり、同月八日の月曜日に井関農機株は七二四円の高値を付けたが、その後は下落した。

控訴人は、同年五月一四日、井関農機株を含む被控訴人との有価証券等取引残高についての承認書に署名捺印し、同年六月三日、同月二四日、同年七月二三日、同年八月八日、同月二一日、同年九月三〇日にも右承認書に順次署名捺印した。

(三) 平成三年四月五日の東京証券取引所における井関農機株の株価は、前場(午前の取引)が、始値六九〇円、高値七一〇円、安値六九〇円、終値七一〇円、後場(午後の取引)が、始値七二〇円、高値七二二円、安値七〇五円、終値七〇五円で一日の出来高は四三五万八〇〇〇株であり、後場のうち、午後二時までの主な株価の値動きは、午後一時七分が七二〇円、午後一時一二分が七二二円、午後一時二七分が七一二円、午後一時四二分が七一七円、午後二時が七一四円であった。また、同日の大阪証券取引所における同株の株価は、前場が、始値六九〇円、高値七〇〇円、安値六九〇円、終値七〇〇円、出来高一〇万一〇〇〇株で、後場が終始七一五円で、出来高一〇〇〇株であった。

また、同日の井関農機株の買い注文全体の約半分は、被控訴人を受託者ないし買主とするものであった。

2  右1の認定事実を前提として、以下、検討する。

(一) 原審証人橋本は、井関農機株が上昇すると判断した根拠として、「見込み買付けをした平成三年四月五日(以下「当日」ともいう。)午前一〇時の時点で、井関農機株の取引高が前日の四〇万株程度の三、四倍の百数十万株に達していて、こういうケースは、かなりの確率で短期的に株価が上昇するというのが、自分の経験である。」と供述するが、証拠(甲一五の1、2、乙二七)によれば、井関農機株については、右四月五日の東京証券取引所の前場において、最初の取引が成立した午前九時二五分から橋本が控訴人を買主名義とする委託注文伝票を作成した午前九時四四分までの間の取引高は、六七万六〇〇〇株でしかなく、この程度では、前日の取引高が四〇万株であったとすると、当日短期的な値上がりを確実に予想するというのは、橋本のいう「経験」に照らしても無理といわざるをえないであろう。

それにもかかわらず、橋本が当日午前九時四四分に控訴人を買主名義として株価七〇〇円で七万株(代金は四九〇〇万円となる。)の委託注文をしたのは、被控訴人会社内部において、井関農機株が、短期間のうちに、大量株の利食いを可能にするような値上がりをするとの特別な情報を把握していたからであろうと推測される。

(二) 前記のとおり、当日の井関農機株の買い注文全体の約半分は、被控訴人を委託者ないし買主とするものであった。

そして、橋本において、本件見込み買付けをするのであれば、単純に東京証券取引所に七〇〇円の指値をして買い注文を出せばよいと思われるのに、現実には、前記のとおり、被控訴人大阪支店に、東京証券取引所において株価七〇〇円で買付けることを依頼し、買付けのできた七万株を同支店から大阪証券取引所を介して控訴人名義で右と同額の株価七〇〇円で買付けをしているのであって、右買付け方法の不必要な迂遠さ、不自然さに被控訴人の前記の買い注文の状況を考え併せると、橋本を含め被控訴人会社全体の作為的な意図が窺われる(原審証人橋本は、東京証券取引所と大阪証券取引所との市場間格差を利用するためであったかのように供述するが、本件では、両取引所での株価はいずれも七〇〇円であって、市場間格差が利用されたわけではない。)。

(三) 東京証券取引所における井関農機株の、当日前場の終値は七一〇円で、高値も同額であったところ、後場は午後一時七分の始値が七二〇円であり、同時刻の取引高は合計一〇五万二〇〇〇株であり、中には、一〇万株の買い注文五口、二〇万株の売り注文一口が含まれていた。その後の大口の取引は売り注文では午後二時四四分の二万三〇〇〇株(株価七一六円)であり、買い注文は午後一時三九分の四万株(株価七一五円)であった。

(四) 当日午後二時ころの東京証券取引所における井関農機株の株価は七一四円であったところ、橋本が控訴人に連絡を取るために時間を要したとしても、株価の変動は証券会社店内において逐次把握される筈であって、橋本が後場の右時間内の株価の変動に無関心であったとは思われず、被控訴人大分支店内にいた橋本がこれに気付かなかったとは到底考えられない。

原審証人橋本が、後記(五)のとおり、本件見込み買付けをした井関農機株を当時売却すれば、三〇万円前後の利益が出たと供述していること自体、弁論の全趣旨によれば、株価七一四円で売却した場合の売却益は二七万二六五一円であったと認められることに照らし、橋本が当時の株価が七一四円であることを知っていたことを裏付ける。

(五) 原審証人橋本は、「当日午後二時ころ、本件見込み買付けにつき、控訴人の承諾を得た際、その時点で売却しても三〇万円前後の利益にしかならず、一日、二日待てば、一〇〇万円以上の利益はあるような勢いだったので、すぐ売りましょうとは言わず、もう少し上がったら売りましょうと述べた。」旨供述する。

しかし、本件見込み買付けは、前記のとおり、短期的に利食いすることを目的としていたと推測されるから、橋本としては、三〇万円前後の利益でも売却可能なら直ちに売却して、とりあえず利を納めるように勧めることも考えられるのにそうはしておらず、他方、「もう少し値上がりして売りましょう。」と言ったというわりには、次の営業日である四月八日に七二四円の高値を付けた前後にも控訴人に売却を勧めた形跡はない。

むしろ、前記(一)ないし(四)の各事情及び証拠(甲一五の1、2)によれば、橋本が本件見込み買付けに当たり、予め情報として把握していた、大量株の利食いを可能とする井関農機株の値上がり現象は、午後一時七分の売買及びその後約二〇分間に行われた売買をもってほぼ終息し、同日午後二時ころの時点では株価七一四円でも七万株もの株をスムーズに売り捌けるとの確たる見通しはなくなり、橋本としては、売却の時機を失した本件井関農機株を買付けの名義人と予定していた控訴人に引き取ってもらうことに主たる関心があり、あえて、七一四円の株価を七二〇円であると虚偽の事実を述べてまで買付けの承諾を得ようとし、これを得て安心したのであり、四月八日以降は一時的な高値として七二四円が付いたことはあっても、七万株もの株を利食い可能な株価で売却できる見込みは既に遠退いていたのではないかと推測される。

(六) 前記(一)ないし(五)の諸事情及び証拠(甲八、原審・当審における控訴人本人)に照らすと、本件見込み買付けの承諾に関する甲八の記載及び原審・当審における控訴人本人の供述は信用するに足りるものと考えられ、これらを総合すると、橋本は、当日午後二時ころ、前記法律事務所にいた控訴人に対し、電話で、「本社で七〇〇円で買った井関農機株があり、本社がボイスで販促している。まだ七万株残っている。今七二〇円している。七〇〇円でやるから買ってくれ。」と買付けを依頼し、控訴人が「井関だけはいらない。」として断わったところ、さらに「野村がやっているから絶対に上がる。とにかく買わなあ。」と購入を勧め、「考える時間も欲しいから、後で連絡をする。」と答えた控訴人に対し、大声で「今返事してくれないとよそからとられてしまう。今返事してくれ。」と買付けを迫ったため、控訴人は、右法律事務所の事務員に対する手前もあって、遂に買付けを承諾したことが認められ、右認定に反する原審証人橋本の供述は右認定に供した前掲各資料に照らし採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(七)  以上(一)ないし(六)の諸事情を総合考慮すると、橋本は、利食いできる確たる見込みがないのにこれが存在しているように装い、虚偽の株価まで告げるなどの過度の勧誘をした行為により、慎重に判断しようとする控訴人をして、強いて本件井関農機株の買付けを承諾させたと認められるから、橋本の行為は、控訴人に対する不法行為を構成するというべきである。

たしかに、前記のとおり、橋本は、同年四月五日か遅くとも同月八日、控訴人に対し、前記七万株について取引が成立したことを報告するとともに、右信用取引に伴う委託保証金の金額とその受渡し方法を確認し、被告人は、右信用取引の委託保証金四九〇万円を同年四月八日に小切手を振出して支払っており、また、控訴人は、その後七回にわたって井関農機株を含む被控訴人との有価証券等取引残高についての承認書に署名捺印したが、これらの事実が、一旦発生した橋本の不法行為責任を消滅させることはないと解するのが相当である(この点において、右承認書に対する署名捺印の事実のもつ意味合いは、東急株取引の場合とは異なることになる。)。

なお、本件見込み買付けとこれに対する控訴人の事後の承諾により、控訴人は、大阪証券取引所を介して被控訴人大阪支店から七〇〇円で本件井関農機株七万株を購入したことになったのであるから、被控訴人の市場集中義務違反、呑み行為、無断売買(これを理由とする予備的主張を含む。)、取引一任勘定の禁止違反をいう控訴人の主張は理由がないし、仕切バイカイ、特別な利益提供による勧誘の禁止違反の点については、前記の認定判断に照らすと、本件では、橋本の行為に不法行為責任を成立させるような意味での違法性を認めることはできない。

また、前記第二の二の4の控訴人の主張については、前記のとおり、井関農機株について、橋本の勧誘行為を不法行為と認める以上、判断する必要はない。

三  損害について

前記第二の一の3(二)の事実によれば、井関農機株について、平成三年一〇月四日に現引き処理された際に、控訴人から被控訴人に対して負担することとなった債務額五一五三万四八八八円と、同年一一月二六日及び二七日に同株が売却された際の清算額三三四六万四六八二円との差額一八〇七万〇二〇六円が、橋本の不法行為により控訴人が被った損害額であると認められる。

被控訴人は、控訴人は買付け承諾後自由に井関農機株を売却できたから、控訴人の損失は右株を適当な時機に売却しなかったことに起因するものであって、橋本の行為と控訴人の損失との間には相当因果関係がないと主張するが、被控訴人主張の事情は、後記のとおり過失相殺の事情として斟酌するのが相当であり、橋本の行為と控訴人の損失と相当因果関係を否定することはできない。

四  過失相殺について

控訴人としては、橋本がした本件見込み買付けを承諾して井関農機株を取得したのであるから、その後、買受け承諾時のいきさつに基づき、株価を静観し、あるいは橋本に対し善処方を求め、同人がこれにある程度応ずるような態度を示したことがあった(原審証人橋本、原審・当審における控訴人本人)としても、控訴人自らの責任において右株式を管理処分することは可能であったのであり、適当な時機に売却していれば、損害が前記のように高額にならずに済んだはずであること(ちなみに、株価は、平成三年四月末に六三〇円まで下がった後、同年五月二日に六九七円まで戻ったことがあった(弁論の全趣旨)。)、橋本は、本件見込み買付けを、控訴人が短期間に利食いできるようにするために行ったのであるが、もともとそのような取引は控訴人自身が橋本に要請し、本件以前に前記のとおり少なくとも四回の取引を行い、利益を取得していたこと、その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、控訴人の前記損害については、五割の過失相殺をするのが相当である。

五  信義則違背について

被控訴人は、控訴人の本件請求は信義則に違背すると主張するが、被控訴人が前記第二の二の(被告の主張)の6において主張する事実を前提としても、控訴人の本件請求が信義則に違背するとはいい難いから、被控訴人の主張は採用できない。

六  結論

以上によれば、控訴人の本件請求は、被控訴人に対し、民法七一五条に基づき、前記損害一八〇七万〇二〇六円に前記割合による過失相殺をした九〇三万五一〇三円及びこれに対する不法行為の後である平成四年五月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却すべきものである。

よって、これと一部異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官稲田輝明 裁判官田中哲郎 裁判官永松健幹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例